ネモ 「ふぅ・・・」
だいぶ暖かくなってきた空気はもやを湛えて甘くよどんでいた。
その湿り気を帯びた春の匂いの中を、彼はゆっくりと学校へ向けて歩いていく。
その歩みの重さはまさに彼の気分そのものをあらわしているようだ。
ネモ 「あーあ・・・もうあの人、俺の事なんか忘れてるだろうなぁ・・・」
彼はいまだにガザDとめぐり合えずにいた。
毎日図書館に通ってはいるのだが、ガザDの顔の記憶に自信が持てず、声をかけられずにいたのだ。
呼んでもらえばいいようなものだが、もし、本人に呼んでくれなんて言ってしまったらもう終わりだ。
それに彼女も傷つくことだろう。そんな事をあえて行う勇気は彼とは無縁のものだった。
その時、彼の頭上で鶯が鳴いた。今年初めて聞く鶯だ。彼を呼んだのだろうか?
ついその声につられて上を見上げるネモ。その目に入ってきたのは今まさに開こうとする桃の花だった。
ネモ 「桃か・・・そういえば、この前は桃の節句だったんだな。ガザDさんはどう過ごしたのかな」
ピキーン!そのとき彼の脳裡に稲妻が走った。
ネモ 「こ、これだ!!!これでガザDさんに会えるぞ!」
彼は人生初めての蛮勇を奮い起こし、その、ひとんちの庭先の桃の枝を折り取った。
ネモ 「そうだそうだ、簡単じゃないか。なんで今まで気づかなかったのかなぁ」
うってかわった軽い足取りで学校へ急ぐネモ。
その心には手に持った一枝の桃のつぼみに先駆けて花が大きく開きかけていた。
―昼休み―
ガザD 「ふぅ・・・」
彼女はずっと待っていた。毎日カウンターに座って、彼が声をかけてきてくれるのを。
ガザD 「もう私のことなんて忘れちゃったのかなぁ。当たり前だよね、親切で本拾ってくれただけだもんね・・・」
そう思いながらも彼女はカウンターに座りつづけていた。何かが起こることを諦めきれずに。
相手の顔を忘れてしまった彼女には待つしか方法がなかったのである。
そして今日、その待っていた相手は、ようやく彼女に会うために動き出したのだった。
ネモ (よーし、行くぞ。この計画ならきっとうまくいく!)
ネモの計画はこうだった。
まず重要なポイント、絶対ガザDさんと違う!って人を探して、
その人が一人の時に声をかけてガザDさんを呼んでもらう。
そしてこの花を「いつも図書館を利用させてもらってるから。今朝摘んできたので飾ってください」とプレゼント。
これなら自然にガザDさんを探し当てられる!
ネモ (お、うまい具合にカウンターに一人だけ女の子がいるぞ)
ガザD (はぁ〜・・・今日も来ないなぁ・・・)
ネモ (うん、彼女は絶対違う。全然見たことない顔だし、あんな地味じゃなかったよ。ガザDさん)
ガザD (何で私、あの人の顔忘れちゃったんだろう・・・)
ネモ 「すいませーん」
ガザD 「あ、はい。何かお探しですか?(また違う・・・あの人はこんなに普通の感じじゃなかったよね)」
ネモ 「1‐Aのネモと言います。ガザDさんを探しているんですが、呼んでいただけますか?」
ガザD 「(え・・・!!!?)あ、あの、ガザDは私ですけど・・・あの、あなた、前に本拾ってくれた彼?」
ネモ 「(ええええええ!!?)あ、いや!あ、あの・・・そ・・・こ、これ!!!じゃあ!!!」
予想外の展開に思いっきりテンパッてしまったネモはガザDを正視できず、
うつむいたまま桃の枝を差し出すと、脱兎の如く走り去ってしまった。
ガザD 「あ!!!待ってー!!!もうちょっと顔をよく見せてよー!!!・・・行っちゃった」
ネモ 「あああああ!終わりだ!!完全に終わった!!!
まともに顔も見られなかったけど、もう関係ないな・・・くそ・・・」
またしてもお互いの顔をよく覚えないまま分かれてしまった二人。
果たして恋の花が開くのはいつだ?というかそもそもまためぐり合えるのか?
初々しくも平凡な二人を桃の花だけが見ていた。
2006/03/07 00:05:55 >>121氏
2006/03/07 00:07:21 >>122氏
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