MS擬人化で萌えよう まとめサイト(仮)


● バカ空手一代 ●


  旧ザクはある日天啓を得た。

 旧ザク 「ぬうむ!ひらめいたぞ!」

  たいしたことでないのは最初に断っておく。

 旧ザク 「つまり水泳部員であふれる場所で勧誘するからいかんのだ!満足に話もできん!」

 ザクU改 「・・・(まーた始まった)」

 アレックス 「(ランニングにでも行こう?)」

 旧ザク 「ズゴック君と二人きりでちゃんと話をすれば、

       きっとズゴック君も空手のすばらしさをわかってくれるはず!」

 ザクU改 「主将、俺らちょっと走ってきます」

 旧ザク 「こうしてはおれん!さっそく文をしたためねば!おい、おまえら・・・」

 アレックス 「(ヒ!・・・意識がこっちに向いた!?)」

 旧ザク 「急用を思いついた。今日はこれまで!」

 ザクU改 「お、押忍!(ふううう・・・変なこと言いつけられないでよかった)」

 アレックス 「お、押忍!(急用“思いついた”って・・・)」


  そして翌日。


 ゼーゴック 「あ!ズゴックちゃん!どうしたの?わざわざ教室まで来て」

 ズゴック 「うん・・・ゼーゴック、ちょっと時間とってもらいたいんだけど、いい?」

 ゼーゴック 「ん?いいけど・・・今ヅダさんにお弁当届けてくるから、ちょっと待ってて?」

 ズゴック 「あ、うん。いってらっしゃい。私、屋上にいるから」


  しばし後。


 ゼーゴック 「おまたせー」

 ズゴック 「ありがと。いつもヅダ君と楽しくやってる時間なのに、ごめんね?」

 ゼーゴック 「ううん、いいのー。ヅダさん、わたしがいると固まっちゃって満足にご飯食べられないから、

        最近はお弁当だけ届けて失礼してるの」

 ズゴック 「それはそれは・・・;」

 ゼーゴック 「それでどうしたの?」

 ズゴック 「う、うん・・・今朝、下駄箱にこれが入ってて・・・」


  『拝啓 陽春の頃、貴女におかれましてはますます御健勝のほど御慶び申し上げます。

  さて、本日こうやって思い切って筆をとったのは他の儀にあらず。

  貴女と小生の間に横たわる懸念を決すべく、

  余人を排して、小生に一日お付き合い願いたく思ったゆえであります。

  もしよろしければ、週末にでも時間を取っていただけませんでしょうか。

  急ぎませぬゆえ、御返答いただければ幸いです。 敬具

  ○月×日 旧ザク』


 ゼーゴック 「わぁ・・・これ、デートのお誘い?」

 ズゴック 「・・・よねぇ。どう見ても」



 ゼーゴック 「なんか気になることでもあるの?」

 ズゴック 「うーん、あの人は私を空手部に入れたいんであって、

       付き合いたいとかそういうのじゃないと思ってたから・・・」

 ゼーゴック 「もー、鈍感だねぇ。お嬢さん」

 ズゴック 「(お、お嬢さん!?)え?というと?」

 ゼーゴック 「つまり旧ザクさんは最初からズゴックちゃんが好きだったのよぉ。部への勧誘なんて口実だったの」

 ズゴック 「そ、そうかなぁ・・・そんなことないと思うけどなぁ」

 ゼーゴック 「そうに決まってるって!ズゴックちゃん美人だし」

 ズゴック 「そんなことないけど・・・」

 ゼーゴック 「そんなことあるの。で?で?どうするの?」

 ズゴック 「どうしよう」

 ゼーゴック 「どうしようって・・・」

 ズゴック 「どうしようかゼーゴックに意見聞こうと思ったのよ。部のみんなにはこんなこと相談できないし」

 ゼーゴック 「(わたしも部員だけど・・・)ふーむ。事もあろうに、部長の引き抜き図ってる人だもんね。

        ふむ・・・、まずズゴックちゃんは旧ザクさんのことをどう思ってるの?」

 ズゴック 「悪い人じゃないと思うんだけど・・・常識はずれなところもあるし・・・」

 ゼーゴック 「嫌いじゃないの?」

 ズゴック 「う、うん。嫌いってわけじゃないんだけど・・・」

 ゼーゴック 「なら、一回付き合ってみればいいじゃない。二人っきりで会ったことないんでしょ?」

 ズゴック 「うーん・・・でも不安なのよね(何か齟齬を来たしてる気がして)」


  予感大当たり。


 ゼーゴック 「なんならわたし、ついていこうか?」

 ズゴック 「でも二人でって言ってるけど・・・」

 ゼーゴック 「よし、じゃあ、うしろからこっそりついていくよ。頼りになる心当たりがあるんだ」

 ズゴック 「そ、そう?」

 ゼーゴック 「まかせて。日にち決まったら教えてね」

 ズゴック 「う、うん、わかった。よろしくね」



  放課後の空手部。


 旧ザク 「おお!ズゴック君!手紙を読んでくれたんだね!?」

 ズゴック 「はい。週末ということですけど、日曜でいいですか?」

 旧ザク 「(おおお!!!好感触!!!)もちろんもちろん!

       では10時にUCガーデンで待ち合わせでどうだね?」

 ズゴック 「ええ、結構です。10時にUCガーデンですね?楽しみにしてますね」


  ズゴックはにっこりと笑うと部室を後にした。


 旧ザク 「(にたぁ〜)」

 ザクU改 「(こりゃ今日も練習にならないな・・・)」


  その夜のヅダ家・・・。


 ヅダ父 「おお、今日はカレイの煮付けとがんもどきの煮物か。みんなそろったね。はい、いただきまーす」

  ドドドドドドドドドドド・・・

 ギャンヌ 「(ピキーン)きたぁ!ご飯時に騒がしいのよー!!!!」

 ゼーゴック 「(ガラリと扉を開けて)ヅダさーん!ちょっと話が・・・ぎゃん!!!」

  勢い込んで走ってきたゼーゴックのひたいに待ち構えていたギャンヌが投げたタンスが思いっきりヒットした。

 ギャンヌ 「人様の家を訪ねるときはご飯時は避けるものよ」

 ゼーゴック 「いたたたた・・・ごめんなさいー・・・義姉さん。

        ちょっと急いでヅダさんにお話したいことがあったもんだから・・・」

 ガルバβ 「(兄さん・・・アレ・・・大丈夫なの・・・?)」

 ヅダ 「(あ、ああ・・・多分・・・)」


  いまだに両者の間に入ってとりなすこともできないヅダであった。



 ヅダ父 「おー、嫁御よく来た。ささ、あがりなさい」

 ギャンヌ 「ちょっとぉー・・・」

 ゼーゴック 「おじゃましまーす(いそいそ)」

 ヅダ父 「まあ、とりあえずガンモの味を見てくれたまえ。それから用件を聞こう」

 ゼーゴック 「わ、おいしい!味付けだけじゃなくて、がんもどきそのものがおいしいです!いい油使ってますね」

 ギャンヌ 「私、別にあなたに私の料理批評されたくないんだけれど」

 ゼーゴック 「批評だなんてとんでもない!今度教えてくださいね?義姉さん」

 ギャンヌ (とことん堪えない子ね・・・)

 ヅダ 「トコロでドうシタのカネ?女のコノ夜歩きハ断じテ行ヘば神隠シもコレヲサケルとぞ」

 ガルバβ 「兄さん・・・本気でなに言ってるかわかんないよ」

 ゼーゴック 「はぁぁぁぁ・・・よくわからないけど、とにかくヅダさんがわたしを心配してくれている・・・うれしい・・・」

 ガルバβ 「き、気持ちは通じてるんだ」

 ギャンヌ 「さっさと用事済ましてくれない?」

 ヅダ父 「おお、そうだそうだ。さっさと用事を済ませて、今日はヅダの背中でも流してやってくれないか?嫁御」

 ゼーゴック 「はい!いっしょにお風呂はいろうね。ヅダさん」

 ヅダ 「オフろェ!!!!!!ふううううぅぅぅぅぅ・・・(ばったり)」

 ガルバβ 「見事に予想通りの展開だね・・・」

 ギャンヌ 「息はあるから人工呼吸はしなくてもいいわよ」

 ゼーゴック 「ちぇ、残念」

 ギャンヌ 「用事はどうしたの用事は」

 ゼーゴック 「あ、じゃあ義姉さん、聞いてくれます?」

 ギャンヌ 「聞くだけはね」

 ゼーゴック 「ズゴックちゃんと旧ザクさんが今度の日曜にデートなんですよぉ」

 ギャンヌ 「・・・は?」

 ゼーゴック 「ズゴックちゃんが不安がってるから、わたしがこっそりついてくことになったんですけど・・・」

 ギャンヌ 「いや、その前にズゴックさんと旧ザクさんがデートってなんかの間違いじゃないの?」

 ゼーゴック 「間違いじゃないですよ?直接相談されたんですもん」

 ギャンヌ 「な、なんかにわかには信じられない話しだなぁ」

 ゼーゴック 「旧ザクさんの熱意がズゴックちゃんに通じたんですよ♪」

 ギャンヌ 「そ、そんなこともあるのかなあ」

 ガルバβ 「正直兄さんにゼーゴックさんって組み合わせもにわかには信じがたいカップルだけどね」

 ギャンヌ (・・・ギロリ)

 ガルバβ (しまった!!!ガクガクブルブル)

 ゼーゴック 「まあそんなわけでデートに協力することになったんですけど、

        一人じゃ心もとないのでヅダさんにも協力して欲しくてお願いに来たんです」

 ギャンヌ 「ふーん・・・具体的にはどうするの?」

 ゼーゴック 「それはわたしが当日までに用意整えますです」

 ギャンヌ 「そ。じゃあ兄さんが起きたら伝えておくわ。それでいいのね?」

 ゼーゴック 「はい。あ・・・あと・・・」

 ギャンヌ 「?」

 ゼーゴック 「義姉さんにもいっしょに来てもらえるとうれしいなぁ・・・」

 ギャンヌ 「私??私がついてって何か役に立てるとも思えないけど?」

 ゼーゴック 「いえ!いつも賢く冷静な義姉さんならきっと頼りになります!」

 ギャンヌ 「そ、そんなこと言われてもなぁ」

 ガルバβ 「(付き合ってあげなよ。兄さんと二人っきりにさせるのも不安でしょ?)」

 ギャンヌ 「(そそそそんなことないわよ!)」

 ゼーゴック 「だめです?」


  実際にはそんなことありまくりなギャンヌの心はすぐに決まった。


 ギャンヌ 「おほん・・・しょ、しょうがないなぁ。まああなたがそこまで言うならついていってあげてもいいよ」

 ゼーゴック 「わ!やった!うれしい!!」

 ガルバβ 「(にやにや)」

 ギャンヌ 「なに笑ってんの(じろり)」

 ガルバβ 「べ、別に・・・(あせあせ)」

 ヅダ 「むにゃむにゃ・・・ゼーごっクたむ、せっけんハ食ベたラいけナいYO・・・」



  時は移って数日後、決戦の朝・・・。


 ヅダ 「うむ、天気もいいし、さわやかな日だな。デートにはもってこいだ」

 ギャンヌ 「そぉねぇ・・・(じー・・・)」


  ギャンヌのあきれたような視線がヅダに突き刺さる。


 ヅダ 「な、なにか・・・?」

 ギャンヌ 「べつに・・・」

 ヅダ 「そ、そう?」

 ギャンヌ 「ただ、何で兄さんがタキシード着て薔薇の花束持ってるのかと思って」

 ヅダ 「あ、ああ、これか。これはほら、なあ?まあ、マナーとかほら、色々アレだろう?」

 ギャンヌ 「(じとー・・・)」


  ギャンヌの視線が更に冷たさを増した。


 ヅダ 「あうあうあう・・・」


  まさにUC町の弾薬庫(対ヅダ専用)が臨界を超えようとした時、

  救世主は舞い降りた。


  ズドドドドドドドドドド

 ゼーゴック 「ヅーダーさーん!!!おーまーたーせー!!!」

  ドッゴォォォォォォン


  いつもながらの大迫力アタックは休日だからと言って変わることはない。

  まあともかく、ゼーゴックの登場によりヅダはとりあえずギャンヌの視殺戦から逃れることを得た。


 ヅダ 「ヤァ!ゼーゴッくン!本日ハオヒガラもよロシク、おげンキでスカ!?」

 ゼーゴック 「おげンキでスよ!えへ。ゼーゴッくんってなんかかわいいね」

 ヅダ 「モモモモチロン黄身は皮イイさ!」

 ゼーゴック 「(ポ・・・)そ?そうです?うれしい・・・」

 ギャンヌ 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 ゼーゴック 「ところでどうしたんです?そんな格好で花束なんて持って」

 ヅダ 「ソ、それハモチろん君のたメニ・・・」

 ゼーゴック 「え!?」

 ヅダ 「コのヨキ日ニ、キキキキミノたメニ持って来タんダガ・・・」

 ゼーゴック 「(じーん・・・)」←感動中

 ヅダ 「シカシ余計ナコとダッタようダネ。咲誇ル薔薇さエモ君ノ前デハ色あセる・・・」


  ヅダが非常にぎこちないながらもこんなことが言えるようになったのは

  昨晩1000回ほど予行演習してきたためである。


 ヅダ 「サア!ぜーごっくン!一日は短イ!どこに行かンと欲すルか!?」

 ゼーゴック 「え!?ええと・・・あの、じゃあとりあえずUCガーデンの植物見て歩きながらお話しましょ?」

 ヅダ 「ヨシ!見よう!話そウ!」

 ギャンヌ 「ちょっとまてー!あんたたちがデートしてどうすんのよー!」

 ヅダ&ゼーゴック 「え?」

 ギャンヌ 「今日の目的は旧ザクさんとズゴックさんでしょー!?所期の目的を忘れるな!!」

 ヅダ&ゼーゴック 「は!!!」


  ギャンヌの一声によって二人だけの世界に向けて離陸しかかっていた両人は正気に戻った。


 ゼーゴック 「あ・・・危なかった・・・義姉さんがいなかったら二人の愛の世界に旅立ってしまうところだったわ・・・」

 ヅダ 「さスガぎゃンぬちゃん!頼リになるゼ!」

 ギャンヌ 「先が思いやられるわ・・・・・・・・・・・・・・・」


  とりあえず監視は役に立ちそうにない。

  孤立無援っぽいけどがんばれズゴック部長!デートの時は近い。



 ギャンヌ 「で、用意しとくって言ってたのは用意できたの?」


  気を取り直してギャンヌがゼーゴックに尋ねた。

  なんだかんだ言いながら、ゼーゴックのペースに慣れて来たようである。


 ゼーゴック 「えへへ、ちゃんと用意してきましたよー。これです!」


  そういいながらゼーゴックは背負ってきたクラシカルな唐草模様の巨大な風呂敷包みを解いた。

  その中から出てきたものは・・・。


 ゼーゴック 「巨大な白人男性の着ぐるみです!」

 ギャンヌ 「( ゚д゚)ポカーン・・・」

 ゼーゴック 「ヅダさんがわたしを肩車してこの中に入るでしょ?

        で、義姉さんはサングラスで変装してこの白人男性とデートの振りしながら後つけるんです」

 ヅダ 「さすガゼーゴック君!なルほど、白人ナらこノ2.5m以上ありそうな身長デモ不自然ヂャなイゼ!」

 ゼーゴック 「えへへ。3人で尾行するためにはどうしたらいいか、がんばって考えたんです」

 ギャンヌ 「めちゃくちゃ不自然でしょー!!!ていうか、私こんなのと一緒に歩くのイヤー!!!!」

 ゼーゴック 「・・・(´・ω・`)・・・」

 ギャンヌ 「ぁぅ・・・そ、そんな目で見つめたってダメなものはダメなんだからね」

 ヅダ 「・・・(´・ω・`)・・・」

 ギャンヌ 「に、兄さんまでなによ。絶対イヤだって言ってるでしょ」

 ヅダ&ゼーゴック 「・・・・・・・・・・・・・・・(´・ω・`)・・・・・・・・・・・・・・・」


  どっかしら抜けてる男たち一家の中の紅一点として育ってきたギャンヌは

  頼られると邪険に出来ないおっかさんタイプの性格であった。

  その狭そうで案外広い心にヅダとゼーゴックの捨てられた子犬のような視線が突き刺さる。


 ギャンヌ 「く・・・し、しょうがないなぁ」


  ギャンヌが折れるまでに要した時間はわずか3分だった。


 ゼーゴック 「やった!さすが義姉さん!」

 ヅダ 「さスがギャンヌチャん!」

 ギャンヌ 「はぁ〜〜〜・・・」

 ゼーゴック 「よし!じゃあさっそく変装しましょ!って・・・あれ??よいしょ・・・」

 ギャンヌ 「なにしてんの?」


  ゼーゴックは着ぐるみに頭を突っ込んだまま、なにやら悪戦苦闘しているようだ。


 ゼーゴック 「しまったぁ!!!ツインテールが邪魔で頭が入らない!!!」

 ヅダ 「僕ニまカセろ!!」


     じょっきり


  ギャンヌが止める間もなくヅダが

  例によってどこからともなく取り出したハサミで着ぐるみ頭部の側面に穴をあけた。


 ヅダ 「さア!こっカらそのカワいらしイ尻尾を出シたまエ!」

 ゼーゴック 「ああ!ありがとう、ヅダさん!わたし、一時はもうこの作戦も終わりかと思った!」

 ギャンヌ 「 あ ん た が 髪 を 下 ろ し た ら よ か っ た ん じ ゃ な い の ? 」

 ヅダ&ゼーゴック 「は!!!!!」


  後悔先に立たず。


 ヅダ 「ヤ、ヤだなァ、モう。先に言ッテくレたまエよ。ハハハ」

 ゼーゴック 「さ、さすが義姉さん。目の付け所が鋭いなぁ。えへへ・・・」

 ギャンヌ 「ほんっとうに先が思いやられるわ・・・・・・・・・」


  ギャンヌは段々茨の道とわかっていながら行かねばならぬ、殉教者のような気持になってきていた。



 ゼーゴック 「ま、まあ、せっかくヅダさんが開けてくれた穴だし、ちゃんと使いましょ」

 ギャンヌ 「もう好きにすれば・・・」


  かくして盛大に耳毛を生やした異形の白人男性がUCガーデンに降臨したのであった。


 ヅダ 「よシ!じゃア担グぜ!」


  ゼーゴックが所定位置についたのを見てヅダも着ぐるみの中に入り込む。


 ヅダ 「いっセーのーで立ち上がるヨ」

 ゼーゴック 「はーい。じゃ行きますよー、いっせーのー・・・」

 ヅダ 「せ!」


  大巨人、大地に立つ。


 ヅダ 「ゼーゴック君、見晴ラしはイカガかな?」

 ゼーゴック 「え、えっと・・・見晴らしは最高なんですけど・・・(モジモジ)」

 ヅダ 「どうシたノかね?」

 ギャンヌ 「トイレ?さっさと済ませてきたら?」


  ゼーゴックは急に顔を赤らめモジモジしだした。

  いつもの快活な彼女とは思えないような変貌振りだが・・・。


 ゼーゴック 「あの!トイレとかじゃなくって・・・!」

 ヅダ&ギャンヌ 「なに?」

 ゼーゴック 「えへへ・・・あのね、ヅダさんの首にね、直接またがっちゃって・・・

        なんか恥ずかしいね、って・・・えへへ」


  ゼーゴックの本日の主要装備。

  ・ミニスカ

  ・生足


 ヅダ 「クケ0−!!!!!!!!!!!!」

 ギャンヌ 「変なこと意識させんなー!!!」


  時既に遅く、ヅダは奇声一発石化していた。


 ゼーゴック 「わー!!!!ヅダさんしっかりしてー!」

 ギャンヌ 「あーあ・・・ちょっと降りて。なんとかするから」


  ギャンヌは着ぐるみをはがしたヅダ(石化中)の首にゼーゴックの風呂敷包みをくくりつけた。

  着ぐるみを取り出してだいぶ小さくなった風呂敷包みはヅダの項から首の横まで達し、

  ちょうどゼーゴックの座席を形作っている。


 ギャンヌ 「はい、コックピット」

 ゼーゴック 「わー、ありがとうございますー。よいしょっと・・・あ、いい感じの座り心地です」

 ギャンヌ 「ほら、兄さんも正気に戻って」

 ヅダ 「・・・その少女の内腿はあたかも雲の如き軽やかな柔らかさを持ち、

     しかもなお驚くべき弾力を持って青年の首を・・・は!!!俺はなにを!?」

 ギャンヌ 「官能小説の時間は終わった?」

 ヅダ 「な!!!だ、誰が官能小説なんか・・・いったい何のことだ!」

 ギャンヌ 「思いっきり声に出てたよ」

 ヅダ 「な、なにぃ・・・ってか、あれ?く、首の感触が・・・雲の如き軽やかな柔らかさはどこ行った!?」

 ゼーゴック 「おーい、ヅダさーん。ちゃんと上にいますよー」

 ギャンヌ 「悪いけどちゃんと行動できるよう急設シートを設置したよ」

 ヅダ 「・・・(´・ω・`)・・・」

 ギャンヌ 「 今 回 は そ ん な 目 し て も ダ メ 」


  なんだかんだで尾行準備を一応整えた一行。

  それは旧ザクがUCガーデンに姿を見せるわずか1分前の出来事であった。



  旧ザクは悩んでいた。


 旧ザク 「ううむ、最初は空手専門店“嘉手武堂”に連れて行くべきか、

       それとも“覇不波館道場”で稽古を体験してもらうべきか」


  どうやったらズゴックに空手の魅力を一番よく伝えられるか?

  まさか先方がデートの誘いと勘違いしてるなどとは思っても見ない旧ザクなのであった。

  そんな悩めるアホウをゼーゴックが高い位置から目ざとく見つける。


 ゼーゴック 「あ!みなさん、旧ザクさん来ましたよ!」

 ヅダ 「ム?よし、みんな、木陰に隠れて観察すルぞ!」

 ギャンヌ 「・・・あれ、何てジム帰りのマッチョ?」


  ギャンヌが呆れるのも無理は無い。

  運動するつもりで出てきた旧ザクの服装は

  ・ボディラインを強調する白のピッチピチのTシャツ

  ・下半身をたくましく見せながら動きやすいバギーパンツ

  ・白ソックスにスニーカー

  ざっとこんな物であった。


 ヅダ 「ま、待テ!良く見るんダ!!」

 ギャンヌ 「何を?」

 ヅダ 「アの胸元ダ!」

 ゼーゴック 「は!!!もしや!!?」

 ギャンヌ 「何何?本気でわかんない」

 ヅダ 「ギャンヌ、アのTシャツの首の部分ヲ良く見ろ!」

 ギャンヌ 「?」

 ゼーゴック 「義姉さん!あれはVネックじゃないですか!」

 ヅダ 「そウ、つまリあのTシャツは体のラインを強調しつツ、更に胸元ヲ開けてセクシーさヲアピールすル狙い!」

 ゼーゴック 「一見ただの肉体原理主義者・・・しかし実は旧ザクさんなりに考え抜かれたファッションなのね!」


  旧ザクは乾いてたTシャツを無造作に着てきただけであった。


 ギャンヌ 「なんかうそ臭い意見だなぁ・・・まあ、旧ザクさんの私服ってイメージそのまんまの服だけどね」


  一方、こちら旧ザクは木陰から覗く恐ろしく怪しげな一行すら目に入らない様子である。

  それほどまでに旧ザクは嘉手武堂と覇不波館道場のどちらに行くかで深刻に悩んでいたのである。


 旧ザク 「やはりズゴック君と言えば貫手。覇不波館道場で試割を体験してもらうのもいいかもしれん。

       いやいや、嘉手武堂で貫手の鍛錬道具を見てもらうのも一興・・・」


 ゼーゴック 「かなり真剣な顔してますね。旧ザクさん」

 ギャンヌ 「まあズゴックさんと二人で会えるなんてまず千載一遇のチャンスでしょうからねぇ」

 ヅダ 「もウすグズゴックさンが来る時間ダが・・・」

 ギャンヌ 「ズゴックさん、やっぱりやめた、とかないでしょうね?」

 ゼーゴック 「大丈夫ですよぉ。ズゴックちゃん、ちゃんとした人だから」


  その頃、UCガーデンに向かいながら、ズゴックはこんなことを考えていた。


 ズゴック 「やっぱりやめようかなぁ・・・旧ザクさんに二人きりで部に勧誘されたりしても困るし。

       ゼーゴックの頼りになる人ってのも気にかかるしなぁ」


  そうは思ってもドタキャンしたりできないのがズゴック。

  なんとなく後悔の念を抱きながらもズゴックはUCガーデンを目指していた。

  行く手に待ち受けるのが空手バカ兼ただのバカと仮装行列であることも知らずに。


 ズゴック 「ん、こんなことばっかり考えててもだめ。

       今日は先入観取っ払って旧ザクさんと付き合ってみるって決めたんだから」


  気持ちを切り替え、明るいまなざしを向けたその視線の先には、もうUCガーデン正門が見えてきていた。



 旧ザク 「やはり嘉手武堂にするか!」

 ズゴック 「それ、どういう所ですか?」

 旧ザク 「おわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


  あまりに自分の中の考えに没頭しすぎて旧ザクは

  彼を見つけて近づいてきた素人のズゴックに

  必倒の間合いでバックを取られてしまった。


 旧ザク 「ま、間合いが近いですぞ!ズゴック君!(ドキドキドキドキ)」

 ズゴック 「あら、ごめんなさい。びっくりしました?」

 旧ザク 「い、いや、いささか考え事をしておったもので。こちらこそ申し訳なかった」


  ?と言う感じで小首をかしげて旧ザクを見つめるズゴック。

  黒のミニのワンピースから伸びたすらりと長い手足がまぶしいほどだ。

  着る女性によっては下品になりかねないデザインのワンピースだが気品ある美しさを醸し出しているのは、

  やはり彼女の肢体が水泳によって鍛え上げられた機能美にあふれているからであろうか。

  その天然の美しさは装飾品をほとんど身につけていないにもかかわらず

  あたかもオーラのごとく彼女の全身を囲繞し、輝かせ、

  UCガーデンで思い思いに休日を過ごしている人々の目を引きつけている。


 男A 「おい、あれ見ろよ。すげー美人」

 男B 「ちょ・・・あんま見るな。いっしょにいる男やばそうだし」

 男A 「ヤクザと女か・・・」


  残念、旧ザクが美しき薔薇についた虫の様子です。

  それはともかく、旧ザクは沸き起こった疑念に頭を悩ませていた。


 旧ザク (はて・・・?ズゴック君・・・運動をするような格好ではないようだが・・・)


  朴念仁主将はまだ気付いていないようである。しかし次の瞬間・・・、


 ズゴック 「今日はデートに誘っていただいてありがとうございました。どこに連れて行って下さるの?」

 旧ザク 「(ああ、そうか。デートだからこのように着飾ってこられた訳か。なるほどなるほど、って・・・・・・・・・)

       どええええぇぇぇぇぇぇ!!!???」

 ズゴック 「((びくぅ!)あ、あの、またなにかびっくりしたことでも?」

 旧ザク 「い、いえ!!決してそのようなことは!!!

       (デ、デートだとぉ?こ、これはいったい・・・俺にいったい何が起こっているのだ・・・)」

 ズゴック 「さっき言ってらした“がでむ堂”って言う所に連れて行ってくださるの?」

 旧ザク 「いえ!まさか!ハハハ。嘉手武堂などムサ苦しい空手バカの巣窟。

       ナウなヤングがホリデーをエンジョイするために行くような場所ではありませぬぞ」

 ズゴック (なんかすごく無理して発言してる感じがする・・・)


  発言も無理していたが、それ以上に今日の予定を一から構築しなおさなくてはならない旧ザクの脳は今、

  本当に相当無理して活動している。


 旧ザク (ぬうううう・・・デートだと?一体どこに行けばいいのだ!

       こ、こんな千載一遇のチャンス、わが人生に2度巡ってくるとは思えぬというのに!

       一体どこに行けばいいのか全く見当がつかん!)


  旧ザクの顔を冷汗がとめどなく流れはじめる。その時・・・、


 大巨人 「HAHAHA!ヘイ!ビューティフルガール!

       今日はYOUをUC町のトレンディスポット、UC水族館にエスコートするアリマスYO!」

 ギャンヌ(グラサン付) 「そ、それはうれしいわ。今UC町でデートといったらあそこよね(赤面)」


  仮装行列が旧ザクとズゴックの前を通り過ぎていった。


 ズゴック (ゼ、ゼーゴック・・・!?

       それにあの下にいるのはヅダ君・・・ギャンヌちゃんまでいっしょになって何やってるの!?)

 旧ザク 「(そ、そうか!今のトレンドは水族館か!)よし!ズゴック君、水族館に行きましょう!」

 ズゴック 「あ、あら、そうですか。まあちょうど行ってみたかったんですけど」

 ゼーゴック 「(ヅダさん、義姉さん、うまくいきそうですよ!

        事前にズゴックちゃんの行きたいところ聞いておいてよかったぁ)」

 ギャンヌ 「(うまくいきそうなのはめでたいけど、わたし恥ずかしくて本気で泣きそう・・・)」

 ヅダ 「(くじケるな!ギャンヌちゃン、精力善用、自他共栄ノ精神で乗り越エるンダ!)」



  そしてその30分後・・・、


 旧ザク ( 水 族 館 は ど こ だ )


  旧ザクは迷っていた。

  それもいたしかたのないことである。

  起床→空手→就寝で一日が終わる彼にとって水族館などと言う場所は

  名も知らぬアフリカの小国にも等しい縁遠い場所であった。

  今、彼は「確かあっちの方角に出来たというような話を親戚のおばちゃんがしていた」

  という蜘蛛の糸のような細く頼りない記憶だけを頼りに

  水族館への先の見えない長い道を歩んでいるのである。


 ギャンヌ 「あれ、迷ってるんじゃないの・・・?」

 ゼーゴック 「まさか・・・」

 ギャンヌ 「だって、道ぜんぜん違うよ?」


  物陰から伺う一行に感づかれたことは、当然同行してるズゴックにも感づかれていた。


 ズゴック (迷ってるわね・・・これ・・・)

 旧ザク 「う、うわははは。いやぁ、いい陽気ですなぁ。ゆっくり歩くにはよい季節ですな」

 ズゴック 「あ、あの・・・旧ザクさんが今日連れて行ってくださるはずだったところに行きません?

       水族館はまたの機会にでも・・・」

 旧ザク 「いや!最初から水族館に行く予定だったのですよ!それ以外にどこに行くと言うのか!!」

 ズゴック (ここから水族館までだと自動車でも30分くらいかかるけど・・・)


  それでも一応旧ザクに任せてみるあたり、なかなか義理堅いズゴックなのであった。

  そして大量の紫外線を放射する太陽の下を歩みつづける二人。(と後をつけてる仮装行列)


 ゼーゴック 「く・・・このままではさすがのズゴックちゃんでも呆れちゃう・・・ヅダさん!第2作戦に移行します!」

 ヅダ 「ム!ソノ作戦とハ!?」

 ゼーゴック 「じゃ、ちょっとおろしてください」


  着ぐるみから出てきたゼーゴックがヅダの首につけていた風呂敷包みを解いて、また新たな衣装を取り出す。


 ゼーゴック 「このヤンキーセットで変装して旧ザクさんに絡むんです!」

 ヅダ 「オオ!ソしてウマイコとやられレば・・・」

 ゼーゴック 「そう、一発逆転、雄雄しくたくましい旧ザクさんの姿を演出してあげられるってわけです!」


  変装セットの内容を以下に記しておこう。

  ・リーゼントかつら

  ・レイバンのグラサン

  ・白いつなぎ服


 ギャンヌ 「いつの時代のヤンキーなのよー!!!」

 ゼーゴック 「うちにあったダウンタウンブギウギバンドのレコードのジャケットを参考にしました。かっこいいでしょ?」

 ギャンヌ 「あんたねぇ・・・・・・・・・」

 ヅダ 「トニカク時間がナい!急いで用意すルんダ!」


  物陰でかわりばんこにゴソゴソ着替えるヅダとゼーゴック。

  その脇でギャンヌはとりあえずキャストから外されたことに安堵のため息をついていた。



 ヅダ 「よし、ジャあ、まずゼーゴック君ガ彼らに絡んでクレ。旧ザクさんが出てきタラ、俺を呼んデ」

 ゼーゴック 「了解しました!ところでヅダさん?ヅダさん?」

 ヅダ 「ん?」

 ゼーゴック 「 や ら な い か (じー・・・とファスナーを下ろしながら)」

 ヅダ 「クワ!!!(石化)」

 ギャンヌ 「あんた、それやりたかっただけでしょ・・・」

 ゼーゴック 「えへへ。ばれました?」

 ギャンヌ 「もう怒る気力もあんまりないから、さっさと済ませちゃいましょ・・・」

 ゼーゴック 「はーい。じゃ、いってきまーす」

 ギャンヌ 「はいはい、兄さんも元に戻って」


  ギャンヌの軽い平手がヅダの頭に振り下ろされ、ヅダが石化から復活する。

  石化しなれたせいか、回復力が上がってきてるようである。


 ギャンヌ 「でも、なんであの娘、リーゼントのヅラかぶってるのにツーテールほどこうとしないのかなぁ・・・」


  今、三方向に髪の飛び出したちびっこギャングが出撃する。

  一方そのターゲットは・・・、


 旧ザク (ぬうううう・・・どこかに・・・どこかに案内標識か何か出ておらんのか!客呼ぶ気あるのか!?)

 ズゴック 「あのー・・・ちょっとどこかで休みません?(このまま歩き続けさせられたらたまらないわ・・・)」


  ドン!

  いささかうんざりして注意力も散漫になっていたズゴックの肩に衝撃が走った。

  続いて下方からひどくかわいい声が響いてくる。


 ゼーゴック 「コラ!どこ見てあるいてんだ、ねーちゃん!」

 ズゴック (え!?ゼ、ゼーゴック!?今度は何!?)

 ゼーゴック (ふふふ。この完璧な変装、さすがのズゴックちゃんもわたしだとは気付くまいて♪)

 旧ザク 「ぬ!怪しい奴め!何者だ!」

 ゼーゴック 「てめーに用はねーんだよ。おれっちはそこのねーちゃんと話してんだ。どいてろや、にーちゃん」

 旧ザク 「なんだと!?貴様如き無頼の輩がズゴック君に近づくことはまかりならん!」


  などと言いながら、おっさんではなくにーちゃんと言われたのがちょっとうれしい旧ザクであった。


 ゼーゴック 「ん?よーよーねーちゃんよー、あんた良く見たらいい胸板してんじゃねーかよー」

 ズゴック 「(む、胸板!?ムッカー・・・)な、なんですか、あなた。近寄らないで!

       (まあ、なんとなく考えてることは予想つくけど)」

 ゼーゴック 「その広い肩幅もいかすぜー。ちょっとおれっちとつきあえよー」

 ズゴック 「(広い肩幅ですってぇ・・・人の気にしてることをー・・・)いえ、結構です!

       この通り連れがおりますので」

 ゼーゴック 「そういうなよー。いいだろ?ちょっとくらいよー」

 ズゴック 「 わ た し 、 チ ビ と 一 緒 に 歩 き た く な い の (フフン)」

 ゼーゴック 「(カチーン)なんだと?このアマ、ちょっとスタイルがいいと思ってー!」

 ズゴック 「あなた、どこの誰だか知らないけど、身長に行く栄養が全部胸に行っちゃったんじゃないの?」

 ゼーゴック 「違うもん!それにわた・・・おれっちはまだ身長伸びるもん!去年と比べて3mm伸びてたんだから!」

 ズゴック 「そんなの誤差範囲ね」

 ゼーゴック 「誤差じゃないもん!ズゴ・・・肩幅の広い女こそもう胸が育つ見込みないくせに!」

 ズゴック 「べ、別にいいわよ!私は誰のこととは言わないけれど、

       ロリ巨乳の美少女が狂ったように惚れてくるとか、そういう都合のいいキャラじゃないんだから!」

 ゼーゴック 「誰のことか知らないけど都合がいいってなによー!

        そんなんだからズゴ・・・肩幅の広い女こそロクな縁がないのよ!」

 ズゴック 「ロクな縁がないとはなによ!このチビ!チビ!チビ!チビ!」

 ゼーゴック 「あー!また言った!何でそんなこと言うのよー!肩幅の広い女のいじわる!」

 ズゴック 「あんたが最初に胸板厚いとか肩幅広いとか言うからでしょ!」


  軽くマジ喧嘩になりつつも一応この場の設定を尊重しつづけるあたり、

  本当に義理堅い一族であることがわかる。

  ちなみにゼーゴックは誉め言葉のつもりで

  “いい胸板”とか“肩幅広い”とか言っていることをここに記しておこう。

  昔からチビな彼女は、伸びやかに発育したズゴックの体を、昔から羨望の目で見ていたのであった。



 旧ザク 「ええい!先ほどからのズゴック君への暴言の数々、もはや許さん!成敗してくれるわ!」

 ズゴック 「(この人・・・女の子の変装って気付いてないのかな・・・)あ、いや、暴力はちょっと・・・」

 旧ザク 「止めてくれるな、ズゴック君!このような輩に情けは無用!」

 ゼーゴック 「(すっかり旧ザクさんのこと忘れてた!)おーっと、相手は俺じゃねーぜ。アニキー!アニキー!!」


  その声に応えて曲がり角から現れる一人の男。

  漆黒のヅラはポマードで固められ黒真珠の輝きを放ち、

  レイバンのミラーグラスは覗き込む者の姿をそのまま映し出し、彼の表情はその下に隠れて窺い知れない。

  そして白いつなぎに白いスニーカー、大きく開いた胸元から覗く大胸筋が

  この男のただならない身体能力を物語っている。


 ヅダ 「フ・・・おレヲ呼んダのカイ?」

 ゼーゴック 「まってました!かっこいー!!よ!金物屋!!たっぷりとー!」

 ギャンヌ (なんで歌舞伎式の声援なのかしら・・・しかも金物屋って・・・)

  ※ヅダ家は603金属製作所という町工場を営んでいます。

 ヅダ (いい具合にヒートアップしてるじゃないか。ここで俺が派手にブッ倒されれば)

 ゼーゴック 「アニキー!!おれっちにアニキがそこのにーちゃん倒す所見せてくだせぇ!」

 ヅダ 「 お ウ ! ま か セ と ケ ! ! 」


  ゼーゴックの発した声援により、ヅダの中から負けて旧ザクを盛り立てるという計画は、

  瞬時に、跡形もなく消失した。


 旧ザク 「なんだぁ!?貴様が悪の首魁か!」

 ヅダ 「サあな。だガ、だったラどうスる?」

 旧ザク 「知れた事よ!おとなしく我が正義の鉄拳を受けよ!」

 ヅダ 「ヤれるモンならヤッテミるもイトアわレなるアリ(ニヤニヤ)」

 旧ザク 「貴様・・・なにかまずい薬でもやっておるのか!UC町の風紀を乱す無頼漢め。

       本日俺と会ったのが運の尽きと思え!」

 ズゴック (旧ザクさん・・・ヅダ君の正体にも気付いてないのね・・・)


  旧ザクがヅダに向かって構えを取る。


 ヅダ 「ヘヘヘ・・・空手かイ?俺に通用すルかな?」


  ヅダがキャラになりきったまま戦闘に備えてサングラスを外す。

  どうやらキャラになりきりすぎて、相手が顔見知りだということを忘れているようだ。


 旧ザク (こ、この男・・・)

 ギャンヌ (バカ!サングラス取ったら・・・)

 旧ザク 「貴様・・・イカレたチンピラかと思ったが・・・どうしてなかなかの面構えじゃないか」

 ズゴック (なんで気付かないのー!!!!)


  幸いにも旧ザクは衣装と髪型に幻惑されていた。


 ヅダ 「さテ・・・始メようゼ」


  ヅダも構えを取る。

  それを見たゼーゴックが、物陰に潜んで成り行きを見ていたギャンヌにスススと近づいた。


 ゼーゴック 「(義姉さん、ヅダさん柔道でやるんじゃないんですか?)」


  ゼーゴックが不審に思ったのも無理はない。

  ヅダの構えは右手をアゴの位置に構え、左手をダラリと下げた、

  ボクシングで言うフリッカージャブを使う選手のような構えである。


 ギャンヌ 「(いや、負けるつもりだからあんな構えなんじゃないかなぁ?)」

 ゼーゴック 「(なるほどー。でもなんかマンガとかに出てくる町の喧嘩屋っぽくてかっこいいですね)」

 ギャンヌ 「(そお?隙だらけであんまりかっこよくないけどなぁ・・・)」



 旧ザク (なんだ?こいつ、いくらかやるのかと思ったが・・・隙だらけで間合いも取れてない。

       ただの力自慢の素人だったか?)

 ヅダ 「ほラ来い!空手家!」


  ヅダが挑発と共に左手で軽い打撃を放つ。

  旧ザクは以外にも伸びてくるその打撃に半歩引いて間合いを取った。


 旧ザク (む・・・奇妙な奴・・・間合いや構えは滅茶苦茶なくせに、この突きの伸びは一体・・・?)

 ゼーゴック 「(あ!旧ザクさんが下がりましたよ!ヅダさんが押してます!)」

 ギャンヌ 「(間合いとって観察してるだけよ。いちいち騒がないの)」

 ズゴック (やっぱりここで旧ザクさんの得意な空手で見せ場作ろうっていう作戦みたいね・・・)


 ヅダ 「ドウした空手家!稽古してるのは型だけか?」


  ヅダがさらに右ストレートで追い討ちをかける。

  旧ザクはそれも下がって簡単に躱した。


 ゼーゴック 「(でも連続して追い込んでますよ?)」

 ギャンヌ 「(兄さんの打撃は柔道の当身の型なのよ。

       多分攻防技術はからっきしなのに妙に突きが伸びてくるんで警戒してるんだと思うわ)」

 ゼーゴック 「(そうなんです?)」

 ギャンヌ 「(で、そろそろ化けの皮もはがれる頃だと思う)」

 旧ザク (こいつ・・・やはり素人だ。狙いもタイミングもなってない。今度打ってきたら仕掛けてみるか)

 ヅダ 「びびってんのか!打って来い!」


  ヅダが大きく踏み込んで左の拳を振り回した瞬間、旧ザクが前に出た。

  ヅダの左拳をブロックしながら鋭い直突を放つ。

  その瞬間、ヅダがやや体を開いて突きをかわしつつ、一気に旧ザクの懐に飛び込んで来た。

  瞬時に突きの間合いを潰し、長い腕を利して旧ザクに被さろうとする。

  両者の勢いがぶつかり合い、お互いの体が弾け飛ぶ。

  旧ザクの腕を捕らえようとしたヅダの指が空しく宙を掻いた。


 ヅダ 「チ!」


  舌打ちと共に下がっていく旧ザクの足をヅダの足払いがかすめる。

  旧ザクはその粘りつくような感触に戦慄した。


 旧ザク (うぬ!かすっただけで足が持っていかれそうになった・・・この足技は・・・)

 ヅダ 「惜しイ惜シい。もうチョットで捕まエらレたものヲ」

 旧ザク 「貴様、柔道か!?それもただならぬ腕前・・・」

 ヅダ 「そっちこソサすがニ空手の頂点ヲ極めヨウかト言う男。

     素人を装っテ騙そウと思ったガ、さすガに無理ダったな」

 旧ザク 「貴様!俺の事を知っているのか!?」

 ズゴック (ヒント:旧ザクさんのこと知ってる柔道の達人、でなんで正体分からないのー!!?)

 ヅダ 「俺が何者デあろウと関係ないコト。さテ、じゃあ今度は本気デ行くゼ」


  ヅダが構えを解き自然体の立ち方に戻る。


 旧ザク 「ぬう!」


  旧ザクが思わず唸った。

  力を抜いて立つヅダの姿は旧ザクから見ても寸分の隙もない見事なものであった。

  本来の戦闘体勢に入ったヅダの姿は、

  あたかも目前の草食獣を捕食しようという大型の肉食獣を髣髴とさせる殺気を放っている。

  それを見た旧ザクが更に半歩下がり三戦の構えを取る。


 旧ザク 「カハァーッ」


  肺の空気を出し切るような息吹である。

  ヅダは旧ザクの息吹と共に増大していく目に見えない圧力のようなものを心地よく感じていた。


 旧ザク 「カッ!」



  息を吐ききった旧ザクがスっと猫足立で構え直す。

  そこには素人相手と高をくくった先ほどのような甘さは微塵もない。

  必殺の一撃を放たんとする旧ザクの構えからは、引き絞った弓のような緊張感が漂ってきていた。


 ヅダ 「ほほウ。空手ノ息吹ってノは形だけじゃあナかったんダな」

 旧ザク 「当然だ。丹田に力をこめる秘法よ」

 ヅダ 「なる程。じゃアそっちモ準備完了だな。いくゾ!」


  一方、ギャラリーは予想外の事態にあたふたしていた。


 ギャンヌ 「(ねえ・・・今のでわかったんだけど、兄さん、本気で勝ちに行ってる・・・)」

 ゼーゴック 「(ええ!?たいへん!)わー!!!がんばれー!アニキー!!!」

 ギャンヌ 「(兄さんを応援してどうすんの!旧ザクさんとズゴックさんを援護するんでしょ!?)」

 ゼーゴック 「(だ、だってぇ・・・)」

  カシャカシャカシャピポパッピ←脳内で計算中

 ゼーゴック 「(どっちも大事な人だけど・・・)」

  ピコーン!←計算終了

 ゼーゴック 「やっぱりアニキの方が大事だぁー!!!がんばれアニキー!おれっちがついてますぜ!」

 ギャンヌ 「(あんたって娘は・・・)」

 ゼーゴック 「(義姉さん、ヅダさん勝てますよね!?)」

 ギャンヌ 「(残念なことにね。まず間違いなく勝つわ)」

 ゼーゴック 「(や、やっぱり!ヅダさん強いですもんね!)」

 ギャンヌ 「(強い弱いってより相性なのよ。

       旧ザクさんがさっきやって見せたアレ、三戦って言うんだけど、

       あれは空手の中でも接近戦を得意とする人たちが伝えてるものなの。

       でも接近戦と言えば組み技の柔道にどうしても分があるわ。

       捕まったら最後何も出来ないまま投げられ、絞め落とされてしまう。

       遠い間合いから出入りして攻撃できればいいんだけど、

       多分旧ザクさんの流派にはそういう技術はないと思う。

       だから兄さんは一撃を外すかこらえて接近した旧ザクさんを掴めばまず勝てるけど、

       旧ザクさんは最初の一撃で兄さんを倒さなければ捕まって負けてしまうのよ。

       圧倒的に不利なの)」

 ゼーゴック 「(やったぁ!義姉さんがそこまで言うならヅダさんの勝利は確実です!)」

 ギャンヌ 「(いやそういうこと言ってるんじゃなくてね・・・)」

 ゼーゴック 「アニキー!勝利は目前ですぜー!!L・O・V・E ラブリーアニキー!!」

 ギャンヌ 「(あんた20年前のアイドル親衛隊か!?)」

 ゼーゴック 「(はい!生まれる前からアニキのファンでした!)」

 ギャンヌ 「(もう・・・まあ、いざとなったら私がなんとかするか・・・)」


 旧ザク (この男…誘っているのか・・・)

 ヅダ 「・・・・・・・・・」


  ヅダが無言で無造作に間合いを詰める。

  二人の間合いが旧ザクの打撃があたる位置まで縮まる。


 旧ザク (く・・・)


  狭すぎる間合いを嫌い旧ザクが下がって間合いを開ける。

  そこにすかさずヅダが付け入って間合いを詰めるていく。

  先ほどから数度にわたってこのようなやり取りが繰り返されていた。



 ギャンヌ 「(やばいわ。兄さんのペースになってる)」

 ゼーゴック 「(どういうことです?さっきからお互い攻め手がないみたいに見えますけど・・・)」

 ギャンヌ 「(さっき私が言ったこと覚えてる?旧ザクさんは一撃で倒さなきゃいけないんだけど

       そのためには自分が自由に動ける状態でいたいの。

       兄さんは逆に自由に動ける旧ザクさんの打撃は食らいたくないわけ。

       だから今、兄さんはどんどん間合いを詰めて旧ザクさんに圧力をかけてるのよ。

       旧ザクさんは無理に出たら捕まるから下がるしかないの。

       ほら、もう壁際に追い込まれたわ。

       あそこでもう逃げ様がなくなって無理な体勢で前に出てくるところを捕らえるつもりなのよ)」

 ゼーゴック 「(えっと、つまりヅダさんが戦局を支配してるんですね!?)」

 ギャンヌ 「(ええ。柔道では場外に出ると反則ポイントを取られるルールがあるの。

       そのルールを利用した相手を場外際に押し込んで、

       反則を取られまいと無理に出てくるところを投げるという戦術があるのよ。

       今兄さんがやってるのはその戦術の応用ね)」

 ゼーゴック 「(なんかよくわからないけど、とにかくかっこいい感じがします!)」

 ギャンヌ 「(旧ザクさんは正体不明な強敵からズゴックさんを守らなくちゃいけないという精神的な重圧もあるわ。

       今の追い込まれた旧ザクさんではもう勝負は見えたわね)」

 ズゴック (な、なんか物凄く緊迫してる感じだけど、これ、ほんとの喧嘩じゃないよね?)


  ズゴックはひとりオロオロハラハラしていた。


 旧ザク 「ズゴック君」


  旧ザクがヅダに目を向けたままズゴックに話し掛ける。


 旧ザク 「すまないが本日のデートはここで終了だ。

      送っていけなくて申し訳ないが、すぐにこの場を離れ帰宅してくれたまえ」

 ズゴック 「で、でも・・・(相手ヅダ君だし、大丈夫だよね?)」

 旧ザク 「こやつ、ふざけたなりをしているが、相当訓練をつんだ武術家だ。

      俺も勝てるかどうかわからぬ。君を危険な目に合わせることは出来ぬゆえ、早くこの場を・・・」

 ズゴック 「そ、そんなこと言われても、じゃあ帰りますなんて・・・

       (私が帰ったらヅダ君たちの努力も無駄になっちゃうし)」


  部長の義理堅さはラグランジュ・ポイントまで響き渡るで!


 旧ザク 「後日必ず詫びるゆえ・・・ここは俺の言う事を聞いてくれ」

 ヅダ 「女に手はダさない。約束しヨう」

 旧ザク 「ぬ。まことか?」

 ヅダ 「ああ、だが、女の前ニ自分のことヲ心配シろ!」


  ヅダの大前当(踏み込んでの突き)が旧ザクの顔面に放たれた。


 ヅダ (精神の緊張が解けた一瞬が狙い目よ!)


  その思いもよらない打撃に今まで攻撃を我慢していた旧ザクは反射的に反撃してしまった。


 旧ザク 「ぬぇい!」


  一撃で倒さなければ、と思い極めた旧ザクの突きがヅダの顔面に向けて放たれた。


 ギャンヌ 「あ!出ちゃだめ!!!」


  無論ヅダの打撃は当てる気のないポーズだけのものである。

  しかしヅダの追い込んでおいて安堵させ、更に直後に緊張状態を作り出すという揺さぶりに

  旧ザクは思いっきりはまってしまった。

  間合いもタイミングも全てヅダの作ったものである。

  そこで繰り出された旧ザクの打撃は完全にヅダに見極められていた。


 ヅダ 「ヨし・・・出てキタな」



  顔面を狙って繰り出された旧ザクの腕を、内側から巻くようにヅダの腕が捉える。

  同時に旧ザクの首にもヅダの手が伸び、上から押さえつけた。


 旧ザク 「し、しまっ・・・!!」


  次の瞬間、旧ザクは体が根こそぎ持っていかれるような強力な力を感じていた。

  自分の体がひどく頼りない。まるで紙切れにでもなってしまったようだ。


 旧ザク 「ズゴック君・・・すまない・・・」


  旧ザクは敗北を覚悟した。

  しかし彼が投げられんとするその刹那、窮地を救うギャンヌの声がその場に響き渡った。


 ギャンヌ 「あー!!!ゼーゴックのパンツが見えた!!!」

 ヅダ 「え?どこどこ?」


  ヅダの関心は一瞬にして完全にゼーゴックのパンツに移った。


 旧ザク 「隙あり!」


  声のほうを振り返って無防備にさらされているヅダの後頭部に

  捕らえられている腕と反対の腕で旧ザクの起死回生の肘打ちが叩き込まれた。

  旧ザクはその乾いた音と肘から伝わる確かな感触に勝利を確信した。


 ヅダ 「!」


  ヅダはそのままの姿勢で2、3歩たたらを踏むと、そのまま声もなく崩れ落ちた。


 ゼーゴック 「アニキー!!!!」

 旧ザク 「あ、危なかった・・・何か知らぬが、最後にこやつが気を逸らさなければ負けていた・・・」

 ズゴック 「旧ザクさん?大丈夫ですか?(っていうかヅダ君大丈夫?)」

 旧ザク 「ズゴック君・・・俺は・・・」

 ゼーゴック 「アニキの仇!食らえー!!!」


  何か言いかけた旧ザクの背中にゼーゴックの渾身の体当たりがヒットした。


 道路工事作業員A 「おーい、ここにあった瓦礫どこやった?」

 道路工事作業員B 「え?しらないっすよ?」

 道路工事作業員C 「誰もいじってねぇよなぁ」


  道路工事現場から消えた瓦礫(重量約100kg)が

  ゼーゴックの背中に担がれた風呂敷包みに入っていたことは言うまでもない。


 旧ザク 「ぐえ」


  旧ザクは何かが潰れたような声をあげながら10mほど吹っ飛んで動かなくなった。

  しかし、無防備な背中に超重装型ゼーゴックの100%体当たりを食らってその程度で持ちこたえたのは

  なんだかんだいっても旧ザクが武術家として卓越した能力を持っているからであろう。


 ギャンヌ 「あー!私がせっかく本来のシナリオ通りの展開に持っていったのにー!」

 ズゴック 「ゼーゴック・・・(涙)」

 ゼーゴック 「くそー!覚えてろー!バカー!義姉さん、一時撤退です!」


  ゼーゴックがヅダを担ぎながらギャンヌに声をかける。


 ギャンヌ 「あ、ちょっと待って…ズゴックさーん、お騒がせしてすいませんでしたー」

 ズゴック 「え?あの、何がどうなってるのー!?説明を・・・」


  ズゴックの声は俊足義理の姉妹には届かなかった。



 ズゴック 「な、なんだったのかな。今の・・・あっと、それより旧ザクさん大丈夫かな?」


  ズゴックは倒れている旧ザクに歩み寄り声をかけた。


 ズゴック 「旧ザクさん?大丈夫ですか?」

 旧ザク 「ぐぅ・・・ぅ・・・う、後ろからとは卑怯な・・・」

 ズゴック 「あ、無理に起きないで。あの人たちは旧ザクさんが倒した兄貴分を連れて逃げちゃいましたよ」

 旧ザク 「うぬ・・・そ、そうか。ではズゴック君、君は無事だな」

 ズゴック 「はい。旧ザクさんのおかげで」


  ふぅっと安堵のため息を一つ吐いて起きかけていた旧ザクは仰向けに寝転がった。

  いったい何を思うのか、その目は澄み渡った空に向けられていた。


 旧ザク 「ズゴック君、君に謝らなくてはいけないことがある」

 ズゴック 「何でしょう?」

 旧ザク 「本日、君を誘ったのは、二人きりで君に空手のすばらしさを伝えんがためだったのだ」

 ズゴック 「そうだったんですか・・・(予期してた悪い方の展開だったのね)」

 旧ザク 「とはいえ、君がデートの誘いと勘違いしてくれたことが嬉しく晴れがましくもあり、

       とても言い出せなかった・・・」

 ズゴック 「そんな、私の勘違いくらいで晴れがましいなんて(そんなんで私を延々と歩き回らせたわけね・・・)」

 旧ザク 「そこで先ほどのような事態となったわけだが・・・」


  旧ザクが上体を起こす。その顔には何か寂しげなような笑みが浮かんでいる。


 旧ザク 「今日は俺の力不足を思い知らされた。俺は2回も負けたのだ」

 ズゴック 「え?でもちゃんとあの兄貴分の方倒したじゃない」

 旧ザク 「あれは突如奴が気を逸らしたため。本来ならば俺はあそこで投げられていただろう。

       そしてまた、奴を倒した直後に舎弟の方にもやられた。

       しかもこれは全く俺の油断のため。

       俺は自分にも負けたのだ。武術家としてこれほど恥ずかしいことはない。

       ・・・・・・・・・あるいは武道の神の罰があたったのかもな」

 ズゴック 「でも、私は私だけ逃がしてくれようとした旧ザクさんの気持ちは嬉しかったわ」

 旧ザク 「そうか・・・ありがとう。君は優しいな。

       ・・・しかし今の俺には君に情けをかけられる資格はない!

       やはり今の俺には色恋沙汰などに力を裂くことは出来ん。

       本日こうして己の力量を知った上はひたすらに空手の道に邁進するのみ!

       ズゴック君、いずれ空手の蘊奥を極めた時にまた本日の続きをしよう。

       それまではさらばだ!我が青春!我が愛よ!」


  そんな寝言を絶叫すると旧ザクはいきなりどこかへ向けて走り去って行った。


 ズゴック 「あ!待って!旧ザクさーん!行っちゃった・・・迷子のくせに」


  その場にぽつねんと残されたズゴックはなんとも言えない情けない気持でいっぱいだった。


 ズゴック 「けど、だからって、女の子一人置いてく?ほんと自分のことしか考えてないんだから。

       それに、私に自分が空手で一番になるまで待ってろっていうのかな。

       試しのつもりで今日は出てきたけど・・・やっぱりだめね、旧ザクさん」


  正確に言うと旧ザクは自分のことしか考えていないんではなく、自分のことまでしか頭が回らないだけである。



  一方ヅダ一行は・・・。


 ゼーゴック 「ヅダさん!しっかりして!ヅダさん!」

 ギャンヌ 「大丈夫だってば。ちょっと寝かせといてあげて」

 ヅダ 「むにゃむにゃ・・・ジオニック社の連中がかつて使った汚い手をまた使ったに違いない・・・

     ザクとヅダ、あの正式化競争の際、連中がいかにあらゆる手を使ったことか・・・

     私はその一部始終を見てきた男だ・・・むにゃむにゃ」

 ゼーゴック 「ああ!ヅダさんが訳のわからないことを!?」

 ギャンヌ 「ああ、兄さん時々変なこと言うのよ、気にしないで。前世の記憶かなんかでしょ」

 ゼーゴック 「でも頭ですよ?大丈夫かなぁ・・・」

 ギャンヌ 「私もいつも殴ってるじゃない。そんなに心配なら・・・

       兄さん、ゼーゴックが帰ってお風呂はいりましょーって」

 ヅダ 「よし、帰るか」


  そこには瞬時に立ち上がった上、いつのまにかゼーゴックをお姫様抱っこしているヅダがいた。


 ゼーゴック 「わ!びっくりした!」

 ギャンヌ 「ね?大丈夫でしょ?」

 ヅダ 「お風呂♪お風呂♪」

 ゼーゴック 「ヅ、ヅダさん、さすがですぅ」


  まあそんなこんなで、

  旧ザク対ヅダ、空手対柔道、ジオニック対ツィマッド、バカ対あほうの宿命の対決は

  一応旧ザクの勝利に終わったのであった。

  そしてその翌日・・・。


 旧ザク 「そういうわけでズゴック君!空手の蘊奥を極めるのは我らの運命!

       二人して頂点を取ったその暁には今度こそデ・・・」

 ズゴック 「わー!わーわーわー!!!言わなくていいー!!!」

 旧ザク 「何を言う!俺たちの愛を結実させるためにはぜひともに空手の頂点を極める必要が・・・」

 ズゴック 「何でそんな話になってるのー!?」

 アッガイ 「愛・・・?二人に何があったの・・・?(ボソ)」

 ゴッグ 「な、なんだ?いつもとちょっと様子が違うみたいだけど」

 旧ザク 「さあ、二人であの空手の蘊奥へ至る道を歩もうぞ!同行二人、これほど頼もしいことはない!」

 ズゴック 「こ、これからずっとこの調子で来られるの?私、耐えられないかも・・・(ゲッソリ)」


  空手に邁進すると決めた旧ザクの強烈な勧誘攻勢がプールサイドで続いていた。

  その頃、柔道場には重いサンドバッグを叩く激しい音が響き渡っていた。


 ヅダ 「おのれ!ストーカーおやじめ!

     ゼーゴック君の前で恥をかかせやがって・・・今度対戦したらただではおかん!」

 ギャンヌ 「でも、それで打撃の練習はじめるのってなんか違う感じがするんだけど・・・」

 ヅダ 「何を言う。打撃を研究しておけばムザムザおっさんの肘打ちなどにやられなかったものを!」

 ギャンヌ 「やられたのは兄さんがゼーゴックのパンツなんかに気を取られたからでしょー?」

 ヅダ 「う!そ、それは・・・」

 ギャンヌ 「どっちかって言うと精神の方の問題よね。実際勝つところだったんだし」

 ヅダ 「ええい、うるさい!とにかく俺は打撃も練習するって決めたの!」

 ザクUF@剣道場 「打撃も極めるって・・・どんだけ凶悪な存在になろうってんだ・・・(・∀・;)ニヤニ・・・」


  こんな調子で、まあまた普段とそんなに変わらない日常にみな戻っていったのだった。

  今度対戦することがあったらただではすまない遺恨を残して・・・。



2006/05/03 22:53:54  >>278氏
2006/05/03 22:56:59  >>279氏
2006/05/05 23:47:57  >>282氏
2006/05/18 21:39:01  >>317氏
2006/06/01 22:47:51  >>362氏
2006/06/08 14:51:30  >>368氏
2006/06/10 22:52:01  >>370氏
2006/06/23 23:51:42  >>390氏
2006/07/20 11:45:28  >>454氏
2006/07/20 11:47:39  >>455氏
2006/07/20 11:50:47  >>456氏
2006/07/20 11:53:12  >>457氏
2006/07/20 11:55:41  >>458氏
2006/07/20 11:58:30  >>459氏
2006/07/20 12:01:39  >>460氏
2006/07/20 12:03:42  >>461氏
2006/07/20 12:09:01  >>462氏

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