MS擬人化で萌えよう まとめサイト(仮)


● 気になるアイツ ●


  “彼”が口を開くところをあまり見たことが無い。

  だって、彼は普段無口で、与えられた仕事を淡々とやっているような奴だから。

  多分、俺は今まで

  『コレコレこうだからその用事は今は出来ない。後回しになるけど構わないか?」とか、

  『その仕事をやるのは今からだと時間がかかるけど良いか?』とか・・・、

  そういった彼に頼まれた仕事に関する類の会話しか見ていないと思う。

  まあ、彼に頼めばまず答えてくれるし、最低限の仕事はこなしてくれる訳だから頼りにはされている。

  というか、いっぱしの便利屋として利用されているのだが・・・。

  本人も嫌な顔一つ見せないし、本来他人がやるべきはずのことを

  まるで初めから自分に課せられていたかのように真剣に取り組むんだから大したもんだと俺は思う。


  UC学園高等部、1年B組、学籍番号:AMX‐004G。

  “彼”――黒キュベレイについてこの俺、ズゴックEがたまたま知っていた唯一の情報である。



  彼との出会いは・・・確か、そう遠くない最近のことだ。

  席替えでたまたま隣になった。まあ、きっかけなんてのはえてしてそんなもんだろうけど。

  彼は相変わらず誰に頼まれたのやらよくわからないが、

  机一杯に積まれたノートとにらめっこしてやがった。

  その量がまたハンパじゃない。

  もしアレを頼まれていたのが俺だったら裸足で逃げ出したくなる。

  目の前にそんな光景が広がってたら、そりゃ思わず声もかけたくなる。

 ズゴックE 「おい」

 黒キュベ 「・・・何?」

 ズゴックE 「お前、いっつもこんだけ頼まれて・・・お前には暇なんてモノはないのか?」

 黒キュベ 「ヒマ、ねえ・・・」

  ちょっと言葉に詰まった黒キュベレイだが、さらりと言い返してきた。

 黒キュベ 「まあ、ヒマだからやってるのかもね」

 ズゴックE 「コレがヒマつぶしかよ・・・にしてもなあ。

        コレ、何人分だ?」

 黒キュベ 「さあ?」

 ズゴックE 「『さあ?』って・・・」

  絶句。机に積まれたノート、あの数なら一日に良くて半分、悪くて三割こなせれば万々歳だろう。

  もちろん、俺は二冊目でめまいを起こすだろうが。

 黒キュベ 「どうやらさ、隣の分も頼まれちゃったみたい」

  そう言って苦笑いする。おい、今までにオカシイところがあったか?

 ズゴックE 「コレ、一日でどんだけ片付けるんだ?」

 黒キュベ 「ん?全部」

 ズゴックE 「ハァ!?」

 黒キュベ 「コレくらいなら・・・そうだね、三時間はかかりそう」

  そういって今度は俺に向けてしっかりと笑顔を作った。

  三時間か・・・黒キュベレイが他人様のノートを丁寧に書いてやってる間、

  俺なんざ水泳部で先輩たちイジられてるのが相場と来ている。

  (幸か不幸か、その先輩たちがまた美形と来ているのが困者だ)

  同じ三時間なのに、どうしてこうも濃度が違うんだ?

  ん?今思ったが、その笑顔はなんだ?俺にそのケは無いぞ?



  さて、そんな他愛もない話をした翌日。

  いつもより早めに学校に来たらそれよりも早く彼がいた。

  相変わらず、彼の机にはたくさんのノート・・・ん?待てよ・・・・・・間違い無い、ノートは昨日よりは増えていた。

  多分、放課後さらに持ってきた奴がいたんだろう、それにしても多い。

  A組の分があると言ってたが、おそらく一クラスの半分近い奴が彼に持ってきているようだ。

  そんなに授業がわかんねえなら、黒キュベレイに頼むんでなく先生に聞けばいいのに、と俺は思った。

 ズゴックE 「よう、朝早くから大変だな」

 黒キュベ 「まあ、ね。それほどでもないけど」

  それほどでもないのかよ、と心の中で一瞬ツッこんだ。

 ズゴックE 「まったく、こんなに溜めるぐらいわかんねえなら先生に聞けっつーの」

 黒キュベ 「そうかもね」

  そういって黒キュベレイは苦笑いを浮かべた。

 ズゴックE 「手伝おうか?」

 黒キュベ 「いや、大丈夫」

  その時、俺はふと黒キュベレイの目を見た。赤くなった目にクマが出来ている。

  ああ、コイツ、明らかに寝不足だ。

 ズゴックE 「無理すんなよ」

 黒キュベ 「ああ」


  昼休み、俺は黒キュベレイにノートを頼んでいた奴にそれとなく聞いてみた。

 ズゴックE 「なあ。クラスの奴、みんなアイツに頼んでるようだけど、なんか理由でもあるのか?」

 女子 「彼、勉強できるからね。それに・・・」

 ズゴックE 「それに?」

 女子 「色々と教えてくれるのよ。苦手なところの直し方とか、暗記の仕方とか」

  なるほど。ようするに、赤ペン先生みたいな感じか。

 ズゴックE 「でもよー、それなら先生に聞けばいいじゃん。なにもアイツに頼らなくたって・・・」

 女子 「先生だって色々じゃない。

      アーガマ先生とかはやさしいし、教えてくれるけどさ」

 ズゴックE 「好みの問題?」

 女子 「そう。私、苦手な先生に聞くの嫌だし」

  ――なるほど、『他人のため』ってのはなかなか難儀なことだな――

  ついつい、そんなことを考えていた。



  さて、なんで俺が黒キュベレイに興味を持ったかと言うと・・・。

  一つはアイツ、友達らしい友達を持っていなかった。

  まあ、かと言って友達になりたくてアイツに話しかけたんじゃないけど。

  もう一つは、ひたすらに他人のノートを取ってるアイツを見て、『変わったヤツ』と思ったからか。

  ようするに、何かの珍しい動物を見つけたような感じ・・・ソレはソレで、アイツに失礼だが。

 黒キュベ 「友達?」

 ズゴックE 「おう。お前、いっつも一人じゃん」

  ある日の放課後、それとなくこんなことを黒キュベレイに聞いてみた。

 黒キュベ 「うーん・・・」

  黒キュベレイは唸ったっきりで何も話さない。が、その後、

 黒キュベ 「・・・君」

 ズゴックE 「俺?」

 黒キュベ 「そう、君」

  たしかに、俺とはなんだかんだ言って良く会話している方だろう。

  というより、他の奴と会話しているところを見ない、と言った方が正しいのだろうか。

  黒キュベレイは、

 黒キュベ 「だって、君とは良く話しているから」

  と続けた。

  俺としては、たまたま席の近いクラスメイトに声をかけただけ、って感じだったんだが。

  案外、悪い気はしなかった。

 ズゴックE 「やっぱさ、そのノート、俺も手伝うよ」

 黒キュベ 「えっ、大丈夫だよ」

 ズゴックE 「いやいや、オマエ、どう見てもムリしてるって」

 黒キュベ 「・・・迷惑じゃない?」

 ズゴックE 「ああ。だって・・・」

  一瞬、次の言葉を出すのが恥ずかしかった。

 ズゴックE 「『友達』・・・だろ?」

  黒キュベレイは、キョトン、とした顔をしてた。何故だか可愛かった。

  これで男じゃなかったら写メでも撮ってたのに、チクショウ。

  その後、何かを理解したようでアイツはクスクス笑ってた。

 黒キュベ 「そう・・・だね。ありがとう」



  事件なんてあっけなく起こるモノで・・・。

  今朝、クラスの先生がホームルームで黒キュベレイがブッ倒れたことを伝えた。

  すぐさま俺は『過労だな』とわかったが、一部からは『どうして?』っていう声があがってた。

  一瞬、『オマエラが悪い!』って言葉が浮かんだけど、グッとこらえた。

  だって、悪いのはあんだけノートを持ちかけたクラスメイトであり、

  それを断らなかった黒キュベレイ自身でもあり、

  ・・・なにより、止めようと思えばできたことをしなかった俺が悪かったからだ。

  帰りのホームルームん時に、『誰が彼に連絡物を届けるか?』って話になり、満場一致で俺に決まった。

  その後、部室に行き、欠席の理由を伝えたら部長は納得してくれた。

  残りの先輩方も『カワイイからって襲うんじゃない』なんてからかいながらも許してくれたんで、

  さっさと彼の家へ行くことにした。


  彼の家は良くて普通、悪くて平凡で特徴に欠ける、っといったところだろうか、

  場所自体は結構良いところに住んでいる。

  インターホン越しに、やや弱くなった黒キュベレイの声に出迎えられ、俺は家へと入ってった。

  親は仕事か何かでいないようだった。



  ややおぼつかない足取りで部屋へと黒キュベレイは向かえてくれた。

  クラスメイトである俺と会えたことで少しは元気が戻ったように見える。

 黒キュベ 「まあ、そこに座って」

 ズゴックE 「いや、お前大丈夫か?」

 黒キュベ 「うん、もう平気」

 ズゴックE 「ったく、無茶しすぎなんだよ・・・」

 黒キュベ 「・・・・・・」

 ズゴックE 「大体、溜めるまでガンバンなって」

 黒キュベ 「・・・・・・」

  言葉が、続かなくなった。この“セリフ”、言おうか、言うまいか・・・。

 ズゴックE 「・・・」

  アイツのほうも、さっきからだまっている。

 黒キュベ 「・・・・・・」

  ちょっと躊躇ったけど・・・すぐに答えが出た。

 ズゴックE 「・・・ゴメンな」

 黒キュベ 「!」

 ズゴックE 「いや、学校で話を聞いたとき、ふと思ったんだ。

        ひょっとしたら俺、止められたんじゃないかって。

        でも、お前がそれでいいんなら、ってほっといてた。

        そしたら・・・」

 黒キュベ 「いいよ、別に」

 ズゴックE 「いや、これは俺のケジメなんだ。謝らせてくれ。

        ・・・本当にゴメンな」

 黒キュベ 「こちらこそ・・・スイマセン」

  なんだか、こっぱずかしかった。

  照れ臭いし、むずかゆい。そんな感じ。

  そんなとき、何やら玄関が騒がしかったのに気付いた。



  まだ体調の戻っていない黒キュベレイを寝かせ、俺が代わりに応対することにした。

  玄関に近付くにつれ、何やら女性の声であることに気付いた。

  まあ、セールスの類ではないだろうとドアを開けた。そこには――

 紺キュベ 「へ?あ、あれ、黒キュベレイ君は?」

 ズゴックE 「いや、確かにここは黒キュベレイの家ですけど」

 赤キュベ 「お前は誰だ?」

 ズゴックE 「誰と言われても・・・たんなるクラスメイトですけど」

  パッと見、そっくりな二人の女の子達がまるでステレオのように右から左から俺に質問を浴びせてくる。

  その勢いに思わず身をたじろいだ。

 紺キュベ 「あ、じゃあ別に怪しいヒトじゃないんだね!」

  左にいた人懐っこさそうな女の子が安堵の声をあげる。

 赤キュベ 「コラ、不審者が留守の応対なんてするものか」

  それを、左の女の子より若干目のつり上がった方がたしなむめた。

 紺キュベ 「そうだね。ゴメンナサイ、いきなり」

  左の女の子がペコリ、と頭を下げた。その表情は明らかにしょげていた。喜怒哀楽が解りやすい子だ。

 ズゴックE 「いや、別に謝られても・・・」

 赤キュベ 「それで、彼は元気か?」

  今度は右の子が尋ねてきた。

  こちらはうってかわって表情に大きな変化は見られない。

  この時、俺はなんとなく彼女達の面影が黒キュベレイに似ていることに気付いた。

  そう。まるで黒キュベレイに化粧でもさせたらこうなるような感じ。

 ズゴックE 「ええ。でもまだちょっと心配なんで俺が代わりに」

  とりあえず、俺はそう答えておいた。それから、

 ズゴックE 「あの、みなさん黒キュベレイの知り合いで?」

  と、尋ねてみた。

 紺キュベ 「うん!」

  と左から聞こえてきたかと思うと、

 赤キュベ 「知り合い・・・というより、『身内』と言った方がいいかな?」

  とは右の方・・・って、え、何だって、身内ですと!?



  とりあえず、俺は彼女達を黒キュベレイの部屋へと連れてった。

  その途中で、彼女達が自分達は黒キュベレイの遠い親戚だとか、

  彼は昔からあんな感じだったとか、そんなことを教えてくれた。

  なるほど、道理でそっくりな訳か。

  さらに、もう一人親戚がUC学園にいるんだとか・・・。

  ていうか、ウチの学校、親戚縁者が集まりすぎやしないか?

  そんなことを考えているうちに、黒キュベレイの部屋まで来ていた。

  彼は来客が誰だか分かっていたらしく、丁寧にお茶と菓子を用意していた。・・・ホントに病人のすることか?



 赤キュベ 「で、体調は良くなったのか?」

  部屋に入って早々、赤キュベレイさんが黒キュベレイに尋ねた。

  黒キュベレイは「ああ。」って感じで相変わらず必要最低限のことしか言わないでいる。

  まあ最近は珍しく良く喋っていた(相手が俺の時のみらしいが)し、

  むしろ、いつもの黒キュベレイに戻ったと言うべきだろうか。

 赤キュベ 「・・・ったく、お前はいつもそうだったな。人の言うことを聞きすぎて、自分を見ていない」

 黒キュベ 「・・・悪い」

 紺キュベ 「でも、人のことを考えるって良いと思うけど・・・」

 赤キュベ 「何事にも、限度というものがある」

  会話に加わろうとして失敗する紺キュベレイさん。そこまで悲しそうな顔をしなくても・・・涙目になってるし。

  赤キュベレイさんはそんな泣きそうな彼女はとりあえず置いて話を続けた。

 赤キュベ 「確かに、困った人を助けるのもいいだろう。

        でもな、『助けを求めている人に手を貸すこと』と

        『一方的に押し付けられて、それを受け入れること』とでは大きく話が違ってくる」

 黒キュベ 「・・・ああ」

 赤キュベ 「もう少し自重を促すくらいがいい。なんでもかんでも人の言いなり、というのもな」

 黒キュベ「わかってる」

 赤キュベ 「それとな、今のお前を大切に思う人もいるだろ?」

  そう言って赤キュベレイさんは俺を見た。黒キュベレイは彼女達に度々俺のことを話していたらしい。

 ズゴックE 「ま、“思い人”ってほど堅苦しくはねえけどな。それでも、お前は俺にとって大事な“友達”だ」

  とりあえず、俺はそう付け加えておいた。黒キュベレイの表情はわからなかったが・・・おそらく、泣いていた。

 紺キュベ 「ねえ、ちょっといいかな」

  黒キュベレイの家を出てから紺キュベレイさんが俺に話しかけてきた。

 紺キュベ 「彼ね、前からああなの。頭いいから皆頼むのはいいんだけど、頼まれても頼まれても断らないから。

        誰も任せっきりで止めないし、いつかこうなるとは思ってたけどね」

 ズゴックE 「ハァ」

 紺キュベ 「だからさ、止めてあげてね。行きすぎてたらさ」

  その顔は、常に明るい紺キュベレイさんには似つかわしくなかった。

 ズゴックE 「ええ、わかりました」

  俺は、力強く答えた。



  二日後、黒キュベレイは帰ってきた。

  アイツもこの二日間で色々と考えていたらしい。そのせいか、俺以外の奴とも話すようになっていた。

  それだけではない、何よりもアイツが変わった、てのを分からせる行動が起こった。

  人の頼みを断っていたのである。

  これまでは、『遅くなるけど』だの『時間かかるよ』だのと、

  どんなに無理っぽく見えても断らずに受け入れてたアイツが、はっきりと『ゴメン、今はできない』って言ってた。

  俺や赤キュベレイさんの話を聞き入れてくれたようで、俺はホッとした。

  ・・・なんだけど、今度は教えて欲しい人と一対一で勉強教えるようになったもんだから、

  放課後とかになるとちょっとした行列ができていた。

  俺から言わせてもらえば、赤ペン先生から家庭教師になった感じ。アイツの勉強好きも困ったもんである。


 黒キュベ 「ねえ」

 ズゴックE 「ああ?」

  久しぶりに二人で道草しながら帰った時、黒キュベレイがいきなり話しかけてきた。

 黒キュベ 「・・・この前は、本当にゴメン」

 ズゴックE 「その話はいいって。もう無理しなきゃいいんだから」

  それだけ言って何も言えなくなる。でも、アイツの顔に安堵の思いを伺えたから、もう言わなくても平気だった。

 黒キュベ 「そうだ、またウチに来てくれないかな?」

 ズゴックE 「ハァ?」

 黒キュベ 「いや・・・この前のお礼もしたいし・・・」

 ズゴックE 「んー・・・あっ、中間テストって再来週だよな?」

 黒キュベ 「うん、そうだけど?」

 ズゴックE 「じゃあ来週さあ、教えてくんねえかな?俺、結構不安でさ」

  アイツの顔がパッと輝いた。

 ズゴックE 「あっ、悪いけどウチの部の奴も何人か呼んでいいか?」

 黒キュベ 「うん、モチロン!」

 ズゴックE 「それと・・・」


  『友達』とこうしていろんな話をするってのは、やっぱ悪くないっていう感じ。

  来週、か・・・なんだか騒がしくなりそうだけど、コイツと一緒に楽しめればそれでいいかな。



2006/05/15 01:15:03  >>304氏
2006/05/16 03:03:46  >>305氏
2006/05/17 17:11:11  >>310氏
2006/05/18 15:05:26  >>316氏
2006/05/20 00:05:03  >>318氏
2006/05/23 00:14:05  >>330氏
2006/05/25 00:37:00  >>334氏
2006/05/25 20:09:28  >>339氏
2006/05/27 00:29:15  >>344氏
2006/05/28 02:40:07  >>347氏

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