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● 遠い誓い・天上の恋人達 ●


  まだ紅葉には少し早いUC山。

  頂上付近にテントを張る一団がいた。


  ヅダ、ギャンヌ、ガルバルディβの柔道兄弟と、珍しく帯同してきたグフカスである。

  もちろん観光ではない。

  人界から離れた山の中で、心身ともに追い詰めた修行を行う“山篭り”である。

  剣道部員たちも参加していたなら

  手腕を剣にかえて闘うグフカスの隠し技“手刀の術”や

  剣を柔術と同じ理によって使うヅダの裏技“柔剣術”など

  珍しいものも見れたのだが、

  そこは両家秘伝の技術であることもあり、

  このようなメンツでの山篭りになったのであった。

  とはいえ、グフカスが参加することも珍しいことではある。

  これがいい刺激となったものか、

  ギャンヌやβもいつもより気合の入った充実した稽古をこなした一日なのであった。


  そして一日が終わり、山の稜線上に夕日が沈んでいく頃、

  4人の若き武道家達は手分けして寝食の準備を整えていた。

  UC山頂には小さな祠があり、山の神が祭られている。

  その周囲は木が刈られちょっとした広場になっており、宿泊するのにちょうどよい。

  ギャンヌはその中央付近で炉を組み食事の用意をしている。

  βは谷間の小川に体を清めに下りたようだ。

  そして、ヅダとグフカスは協力して女性用と男性用、二基のテントの用意をしている所だ。


 ヅダ 「いやー、今日はいい稽古が出来ましたよ。ギャンヌとβにもいい刺激になったと思います」

 グフカス 「・・・できればグフBも参加させたかったのだが」

 ヅダ 「彼女は、何か用事でも?」

 グフカス 「・・・ああ、部の他の連中となにやら約束があるようでな」

 ヅダ 「ああ、そういうことですか」

 グフカス 「・・・いつまでも同じ家族、とは行かぬものだな」

 ヅダ 「ええ、みんな変わって行きますよ。それも、思ったより早く・・・」


  ガルバルディβが谷から戻ってきた。

  上半身裸で歩くその姿は、まだ細身ながらも円満な成長を見せ、

  既にヅダに似た強者の雰囲気を漂わせ始めている。


 ヅダ 「それに、武道に関しては最初は“家族ぐるみ”じゃなかったじゃないですか」

 グフカス 「・・・む、そうだったな」


  二人の脳裏にこれまでの両家の歴史が蘇る。

  思えば二人は両家の子供たちの中で異色の存在であった。

  幼い頃から天才を現し、他の子供たちが遊んでいる間も、

  二人して武道の稽古に余念がなかったものである。


 ヅダ 「グフカスさんに勝てなくて、いっつも泣いてましたねぇ」

 グフカス 「・・・父上の真似事をして、随分厳しく当たってすまなかったな」

 ヅダ 「素手でも剣でもかないませんでした」

 グフカス 「・・・幼い頃の一年の違いは大きい。それに女の方が成長が早いということもある」

 ヅダ 「確かに、グフカスさんは俺よりも随分背が高かった」

 グフカス 「・・・今思えば、体格に物を言わせていじめていたに等しいな(苦笑)」

 ヅダ 「いえ、感謝しているんですよ。稽古の中で影響を受けたのは子供たちの中ではあなただけだ」

 グフカス 「・・・それは私もだ」

 ヅダ 「グフカスさんが?」

 グフカス 「・・・ああ、いつ追い抜かれるかとビクビクしていたものだよ」

 ヅダ 「そうだったんですか」

 グフカス 「・・・そして君がどこかの大会で優勝したとか聞くと、負けまいといっそう練習に励んだものだ」



  いつも自信と威厳に満ちたグフカスの姿のみを見てきたヅダには、随分意外に思える言葉だった。


 ヅダ 「覚えていますか?俺が小学校に入った時の事」

 グフカス 「・・・む・・・ああ、道場でのことかな?」


  二人は同じ光景を思い出していた。

  入学祝いを持ってきてくれたグフ父についてきたグフカスにヅダは道場に呼ばれたのだった。


 グフカス(小2) 「・・・こちらにきて、すわってくれ」

 ヅダ(小1) 「はい」

 グフカス(小2) 「・・・きみもしょうがくせいになったから、いっておきたいことがある」

 ヅダ(小1) 「なんですか?」

 グフカス(小2) 「・・・わたしは、けんのみちで、ちょうてんにたちたいとおもう」

 ヅダ(小1) 「ぼくは、じゅうどうでせかいいちになりたいです!」

 グフカス(小2) 「・・・うむ、そのこころいきやよし!」

 ヅダ(小1) 「これからも、よろしくごしどうください!」

 グフカス(小2) 「・・・きみもしょうがくせいになったからには、もう、あまえはゆるされん」

 ヅダ(小1) 「は、はい」

 グフカス(小2) 「・・・おたがい、かくごをきめて、ぶどうのうんおうをきわめていこうではないか」

 ヅダ(小1) 「はい!いっしょにがんばりましょう!」

 グフカス(小2) 「・・・うむ!きょうはそれをいいたかったのだ。われらふたりでちょうてんをきわめようぞ!」


 ヅダ 「はっきり覚えていますよ」

 グフカス 「・・・君に先輩ぶりたくてな(苦笑)」

 ヅダ 「しかし、あの誓いが何度俺を助けてくれたことか」

 グフカス 「・・・?」

 ヅダ 「つらい時もやめたい時もありましたが、その度にいつもあなたとの誓いを思い出して」

 グフカス 「・・・そうであったか」

 ヅダ 「いつかあなたと並んで歩いていけるようになりたかった・・・

      つらい時はいつもそう思って乗り越えてきたんです」

 グフカス 「・・・そうか・・・そんなことを」

 ヅダ 「今でも気持は変わりませんが」


  言って微笑むズダの表情には邪気一つない。


 グフカス 「・・・私は・・・」


  言いかけてグフカスが口をつぐんだ。

  ややしばし迷いを見せ、二人の間に沈黙が訪れる。

  ヅダは何も言わずに彼女が再び口を開くのを待った。


 グフカス 「・・・私は、もうずっと並んで歩いて来たと思っていた」

 ヅダ 「ずっと?」

 グフカス 「・・・ああ、あの旅の時以来、少なくとも武芸に関しては。ずっと」

 ヅダ 「ああ・・・あの・・・もうどれくらいになりますか。もうすぐ3年になりますかね」

 グフカス 「・・・ああ、そうだな」


 グフカス(中3) 「・・・これは物見遊山の旅ではないのだぞ?」

 ヅダ(中2) 「わかっています」

 グフカス(中3) 「・・・しかし何かあったら私には責任が取りきれん」

 ヅダ(中2) 「俺は俺の責任において行きます。このような好機は逃せません」

 グフカス(中3) 「・・・そうか。君も古であれば元服してもおかしくない年頃・・・

          覚悟があるのならば、これ以上は何も言うまい。では共に参ろうか」


  進学も決まった春休み、グフカスは一人で諸国の武芸者を巡る修行の旅を企てていた。

  ヅダだけに打ち明けた所、彼も付いて行くと強く主張し、

  結局二人であちこちの武芸者と手合わせをして歩くことになったのであった。



 ヅダ 「あの時も、グフカスさんに置いていかれて、差をつけられるのが怖くてね」

 グフカス 「・・・私は・・・実の所、君が一緒に来てくれて、とても心強かった」

 ヅダ 「お互い内心は色々ありますね(笑)」

 グフカス 「・・・ああ・・・今だって・・・君が知らないこと、何か考えてるかもしれないぞ」

 ヅダ 「うお。コワイコワイ」

 グフカス 「・・・しかし、あの旅は楽しかったな」

 ヅダ 「ええ、楽しかった」

 グフカス 「・・・強い者にも沢山出会った」

 ヅダ 「沢山いましたね。グフカスさんはどの戦いが一番印象に残っています?」

 グフカス 「・・・あの、北の町の外れの野原で・・・老柔術家と君が立ち会った・・・あれは凄絶な試合であった」

 ヅダ 「当身の得意な柔術家でしたね。随分食らった」

 グフカス 「・・・私は本当に試合を止めたかったよ。勝てそうにはとても見えなかった」

 ヅダ 「俺としてはどうでもグフカスさんの前で倒れるわけにはいかないんでね(笑)」

 グフカス 「・・・起死回生の捨て身技からの寝技は鮮やかだったぞ」

 ヅダ 「何とかしのいで、攻め疲れを待って・・・泥臭いやり方でしたけれど」

 グフカス 「・・・野原の片隅に山桜が咲いていた」

 ヅダ 「ええ、きれいでした」

 グフカス 「・・・君によく似合っていた」

 ヅダ 「俺に?」

 グフカス 「・・・ああ。ボロボロではあったが勝利を収め桜の下に立つ君は見事な若武者振りであったぞ」

 ヅダ 「照れますね」

 グフカス 「・・・今更照れる間柄でもなかろう。君はどの立会いが印象に残っている?」

 ヅダ 「山中の寺の修行僧とあなたとの試合は、お互い秘術を尽くした素晴らしい試合でした」

 グフカス 「・・・槍使いの僧侶との立会いか。あれは生涯に何度あるかという試合であったな」

 ヅダ 「互いの技が完全に噛み合い淀みなく・・・まるで舞うかの如く・・・」

 グフカス 「・・・あたかも技を通じて対話しているような気がした・・・」

 ヅダ 「双方武器を引いて、引き分けとなったのはあの試合だけでした」

 グフカス 「・・・また、会いたいものであるが」

 ヅダ 「そのうち訪問してみましょうか?」

 グフカス 「・・・まだあの山寺に居られるとよいがな」

 ヅダ 「山門の梅も大きくなっているでしょうか」

 グフカス 「・・・どうであろうか?門の左右に白梅、紅梅の若木を配し育てておられるということであったが」

 ヅダ 「あの時は咲きかけた梅の花に春の雪が降り積もっていた」

 グフカス 「・・・立会いの後、私に梅を指して“君達二人のようだ”と言われた」

 ヅダ 「へえ、そんなことを」

 グフカス 「・・・そして、若き梅に雪の冷たさは堪えようが、幾度もの風雪に耐えて、より芳しきものなれば、

       今この時の辛苦を恐るる事勿れ。と・・・」

 ヅダ 「なるほど」

 グフカス 「・・・その後、君は辛苦に耐えて今や大輪の花を咲かせようとしておるな」

 ヅダ 「それはグフカスさんも同じ事でしょう」

 グフカス 「・・・そうであろうか?」

 ヅダ 「そうですよ」

 グフカス 「・・・それならば・・・よいが」

 ヅダ 「これからも二人して武の道を歩んでまいりましょう」

 グフカス 「・・・二人して・・・な・・・」


  すっかり日が落ちたUC山頂では、秋の澄んだ空気の中、星々が突き刺す程に鋭い輝きを放ち始めている。

  二人から少し離れた所では、ギャンヌとβが楽しげに笑いあいながら食事の準備中だ。

  飯盒で飯を炊いて、豚汁がおかずのようだ。

  その様子を何とはなしに横目に見たグフカスの脳裏にゼーゴックのことがよぎる。


 グフカス (・・・それが、皆変わって行くということか・・・君もそうなのか・・・)



  ふと寂しさを覚えてヅダの顔を確認したくなり、グフカスは顔を上げた。

  見上げたヅダの笑顔は、常日頃彼女が見慣れた笑顔であったが、

  彼女はなぜか彼がその背景の星空に溶けてしまいそうな錯覚を覚えた。

  グフカスは思わずヅダの手を握り締めた。

  確かな感触によってヅダの存在を確かめたかったものか・・・、

  その何か切羽詰った様子にヅダがいささか驚いた表情を浮かべる。

  そして交錯する二人の視線・・・。

  グフカスの真剣な眼差しにヅダも目を逸らすことも出来なかった。


 グフカス 「・・・も、もし・・・」

 ヅダ 「もし?」

 グフカス 「・・・もし、今生で我々の道が分かれたとしても、

       やがて幾星霜の後、肉の衣を脱ぎ捨てて、

       天上で相会う事ができたならば・・・

       そ、その時は・・・

       また二人で一緒に同じ道を歩んでくれる?」


  顔が熱い・・・胸が高鳴っている・・・私は一体何を言ってしまったのか?

  グフカスは突如湧き上がった、初めて感じる得体の知れない感情の波と

  言ってしまったことに対する後悔に

  いつもは冷静な自分の心が頼りなく揺らいでいるのを感じていた。

  こんなに激しく鼓動している自分の体が、なぜか他人の物のようにも感じる。


 ヅダ 「え・・・」


  突然のグフカスの言葉にヅダは一瞬絶句した。

  御伽噺だ・・・しかし、ヅダには彼女の心がすぐわかった。

  たった一言が彼女には必要なのだ。

  彼女の自らを抑制することに慣れすぎた強靭な精神は

  彼を求めることすらない。

  彼女の高潔な精神はゼーゴックから彼を奪うなど

  思いつきすらしないのである。

  そのただ一言があれば、絵空事の約束だけで、

  それだけで満足してその約束を胸に力強く人生を歩んでいくことができる。

  ずっと彼女と一緒に歩んできた彼には

  誇り高くも寂しげなグフカスの心の裡がよくわかった。

  そして、ヅダもまた、その約束がどれだけ自分を力づけてくれるか、

  それを瞬時に理解していた。


 ヅダ 「わかりました。一緒に参りましょう」


  そう返事した声の調子は、

  ヅダ本人ですら思っても見なかったほどに静かに、そして深く響いて

  夜の闇に吸い込まれていった。


 グフカス 「・・・そうか。共に歩んでくれるか。・・・ありがとう」

 ヅダ 「二人で昼と夜の境界の褥に永遠にまどろむも良し。

      星々の間をどこまでも一緒に歩んでいくも良し」

 グフカス 「・・・いつか・・・二人で・・・」

 ヅダ 「いつか、いつまでも、二人で」

 グフカス 「・・・良かったぁ」


  嬉しさよりも安堵の気持をグフカスは感じていた。

  その安堵したグフカスの表情はまるで幼子のようだ。

  それはヅダにも今まで見せたことがない表情であった。

  死後、天上で会おう、そんな他愛もない約束が今、

  彼女の心を潮が満ちるように優しい気持で満たしていく。



 グフカス 「・・・私は・・・これで十分だ。今日のこの約束がいつでも私を強くしてくれるだろう。

       かつて、私との約束が君に力を与えたのと同じように」

 ヅダ 「俺はもう何も怖くありません。

      どこへ行くともその先であなたと再び出会えるのなら、

      この世でどのような最後を迎えることも怖くない」


  ヅダもまた、この世で唯一無二の知音と永劫の縁をここに結べたことが嬉しかった。

  そしてまた同時にこの約束によって、

  現世を生き切るための目標が自分にできたということも彼は理解していた。

  かつて死んで後、神仏に会わんとした人々はこのような心持だったのだろうか?

  彼らほどに清らかな目標ではないかもしれないが、

  彼は死して後に永劫の恋人を得る為に現世を生きるのである。

  ヅダには天上で軽々と星々を渡って歩くグフカスが目に見えるようであった。


 グフカス 「・・・今回も君は、この約束から力を得るのか。

       ・・・君ばかりずるいな」

 ヅダ 「知らないんですか?年下の男はワガママで、女性は割に合わない思いをするものなんですよ?」

 グフカス 「・・・まあよいか。永遠に続く世界のための投資となれば、多少は我慢しよう(笑)」


  その時、向こうから食事の準備が出来たことを知らせるギャンヌの声が聞こえてきた。


 ヅダ 「お、出来たみたいだ。行きましょうか」

 グフカス 「・・・うむ、いい匂いだ」


  一歩、また一歩・・・焚き火の傍に近づく毎に

  涅槃に恋を預けた天上の恋人から地上の同志に戻っていく。

  しかし、二人が同じ道を行く同志に戻った後も、

  今日の約束は彼らの心を明るく照らし続けるだろう。

  それはあたかも今、二人の頭上に輝いている北極星のように

  二人の行く道を指し示し続ける光を

  二人の生涯を貫いて放ち続けるのだろう。

  やがて、二人が共に天上の褥で眠りにつくまで・・・ずっと・・・。



  『遠い誓い・天上の恋人達』 ―終わり―



  おまけ


  その時、二人は不意に人の気配を感じ立ち止まった。

  二人が気配を感じた方向に同時に顔を向けると、そこには・・・、


 ゼーゴック (じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・)


  木の陰から半分ほど顔を覗かせてゼーゴックがこちらを凝視していた。

  足元には皆のために作ってきたのか、大きな重箱が置かれている。


 ヅダ 「う、うお!?」

 グフカス 「・・・わ、我々に気配を感じさせずここまで接近するとは!?」


  さすがの達人コンビも何かに夢中になってる時はこんなものである。

  ゼーゴックはすすすと無言で木の陰に姿を隠した。


 ゼーゴック 「しくしくしくしくしくしくしくしく・・・」


  そして木陰から聞こえてくる啜り泣きの声・・・。


 グフカス 「・・・は、話を聞いてくれ、ゼーゴック君!こ、これは、その・・・」

 ゼーゴック 「しくしくしくしくしくしくしくしく・・・」

 ヅダ 「わ、ワレワレハ、その、決しテやマシイ事ナンか、そノ・・・」

 ゼーゴック 「しくしくしくしくしくしくしくしく・・・」

 ギャンヌ 「ねえ、ご飯できたよ?なにやってるの?」

 ヅダ 「うお!ギャ、ギャンヌちゃんはいい子だからちょっと向こうに・・・」

 ゼーゴック 「しくしくしくしくしくしくしくしく・・・」


  後はいつもお決まりの大騒ぎ。

  天上の恋人たちは今度こそ本当に地上に引き戻されたのであった。


  『遠い誓い・天上の恋人達』 ―本当に終わり―



2006/10/01 20:56:40  >>338氏
2006/10/01 20:59:17  >>339氏
2006/10/01 21:01:11  >>340氏
2006/10/01 21:03:04  >>341氏
2006/10/01 21:04:50  >>342氏
2006/10/01 21:06:01  >>343氏

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